2026年4月19日日曜日

パキスタンにおける給食および関連する食事支援の現状

 

1. 学校給食プログラムの推進と拡大

パキスタン政府および各州政府は、教育支援と児童の健康改善を目的として、学校給食プログラムの導入・拡大に注力しています。

  • パンジャーブ州の取り組み 2024年8月、パンジャーブ州のマリアム・ナワーズ州首相は、公立学校の児童を対象とした給食プログラムの一環として、無料の牛乳を提供する事業を推進しています。これは英国高等弁務官との会談においても、教育・保健分野での協力事項として確認されました。

  • 教育政策における位置づけ 2025年11月時点の概況によれば、女子教育の推進や奨学金制度と並び、学校給食の拡大が子供たちの生活に関わる重要な課題として位置づけられています。

2. 食事支援の背景と目的

給食・食事支援が行われる背景には、深刻な栄養不足や社会的不安が存在します。

  • 健康と栄養の改善 ポリオ、デング熱、HIVといった感染症の拡大や、基本的な保健医療サービスの不足に直面する中で、給食は子供たちの栄養状態を底上げするための重要な手段となっています。

  • 通学率の向上 学校で食事を提供することにより、貧困層の子供たちが学校へ通う動機付けを行い、教育へのアクセスを改善する狙いがあります。

3. 社会福祉としての食事提供(Panahgah等)

学校以外でも、困窮者を対象とした公的な食事支援が行われています。

  • 福祉施設での提供 パンジャーブ州政府などは、ホームレスや低所得者の方々が尊厳を持って食事をとれるよう、**Panahgah(避難所・福祉施設)**での食事提供を継続しています。

  • 災害時の食料配給 2022年の大規模洪水のような非常時には、被災地での食料配給が実施されています。ただし、配給現場に人々が殺到し、死者が出るなどの混乱も報告されており、安全かつ円滑な供給体制の構築が課題となっています。

4. 給食運営における課題

プログラムの実施にあたっては、経済的・社会的な障壁が複数存在します。

  • 物価高騰と経済危機 深刻なインフレにより食料品価格が高騰しており、支援プログラムの維持コストを圧迫しています。

  • インフラと治安の不安定さ 洪水による校舎の損壊や、テロなどの治安悪化、教師不足といった教育現場の不安定さが、給食を安定的かつ安全に提供する上での妨げとなっています。

  • 難民問題の影響 アフガニスタン国籍者の国外追放や難民の帰還といった社会情勢の変化も、地域レベルでの食料・教育支援の優先順位や運営に影響を及ぼしています。


なお、これらの情報は、メディアニュース(Tribune紙, Dawn紙, Jang紙, Duniya紙, ARY紙, GEO紙, Observer紙, JICA/UN機関ページ等)に掲載された記事について、本研究メンバーが該当期間に継続して収集した情報をもとに作成しています。

2026年4月16日木曜日

パキスタンにおける感染症:デング熱

パキスタンにおけるデング熱流行状況と対策の概要(2024年1月〜2026年3月)

 パキスタンにおける2024年1月から2026年3月にかけてのデング熱流行状況と対策の概要を分析し、まとめると以下の通りです。なお、これらの情報は、メディアニュース(Tribune紙, Dawn紙, Jang紙, Duniya紙, ARY紙, GEO紙, Observer紙, JICA/UN機関ページ等)に掲載された記事について、本研究メンバーが該当期間に継続して収集した情報をもとに作成しています。

 パキスタンにおけるデング熱の流行は、パンジャーブ州、ハイバル・パフトゥンハー(KP)州、シンド州などの主要都市を中心に、年を追うごとに深刻化しています。2024年初頭の流行の兆しから始まり、同年末には都市部での爆発的な感染拡大を記録しました。2025年に入っても勢いは衰えず、モンスーン明けの再拡大を経て、2026年にかけては死者数が増加するなど、公衆衛生上の重大な脅威として定着しています。

 感染状況の特徴として、従来のような季節性の流行に留まらず、冬期を含めた通年での症例報告が常態化している点が挙げられます。特にイスラマバードやラホールといった大都市では、流行ピーク時に病院の収容能力が限界に達し、医療体制が逼迫(ひっぱく)する事態が繰り返されています。また、デング熱のみならず、マラリアや大気汚染(スモッグ)、ポリオ対策といった他の保健課題が重なり、公衆衛生全体への負荷が極めて高い状態にあります。

 政府および自治体は、監視体制の強化や「デング熱対策キャンペーン」を通じた清掃、殺虫剤散布(スプレー作業)などの物理的な防除を継続的に実施しています。特筆すべきは、標準作業手順書(SOP)に従わない施設や、ボウフラが発見された場所の所有者に対し、逮捕、罰金、建物の封鎖といった極めて厳格な法的・強制的措置を講じている点です。

 しかし、こうした行政の介入にもかかわらず、症例数は増加傾向にあり、一部の検査機関による料金規制の不遵守といった医療アクセスの不平等も顕在化しています。現状、デング熱は一時的な流行病ではなく、国家的な保健優先事項として、持続的かつ包括的な対応が不可欠な状況であるといえます。


子ども・教育の視点から見た状況

 子ども、および子どもの教育という視点で考えた場合、以下のような状況にあります。

 パキスタンにおけるデング熱の蔓延(まんえん)は、子どもの健康と教育環境に対して多層的な脅威をもたらしています。特に、都市部や農村部の学校周辺における衛生環境の悪化が、教育の継続性と子どもたちの発達に深刻な影響を及ぼしています。

1. 子どもの健康被害と教育への直接的影響

 デング熱の症例は全年齢層で増加傾向にありますが、2025年後半から2026年にかけては、マラリアや「謎の病気」の併発とともに、児童の死亡例も複数報告されています。子どもの感染は、重症化のリスクだけでなく、長期の欠席を余儀なくさせ、学習の遅れ(ラーニング・ロス)を直接的に引き起こしています。特に、イスラマバードやラーワルピンディなどの都市部では、流行期に病院の収容能力が限界に達し、適切な医療ケアへのアクセスが困難になったことも、子どもたちの健康リスクを増大させる要因となりました。

2. 教育環境における感染リスクと行政措置

 学校施設は、その構造や管理状況によって蚊の繁殖源になりやすく、子どもたちにとっての最大のリスク地点の一つとなっています。

  • 学校内の衛生管理: ボウフラ(蚊の幼虫)が発見された教育施設や商業施設に対し、行政による「建物の封鎖(シール)」や厳格な法的措置が講じられています。これは、学校が感染拡大の拠点となることを防ぐための不可欠な措置である一方、一時的な休校措置が子どもたちの学習機会を奪う結果にもつながっています。

  • 学校での啓発活動: 州政府の「デング熱対策キャンペーン」の一環として、学校単位での予防教育が行われています。水たまりの除去や蚊よけの使用、適切な服装(長袖の着用等)の指導が、子どもたちを通じて各家庭に普及する「啓発のハブ」としての役割が学校に期待されています。

3. 社会経済的要因と教育の格差

 デング熱対策における医療アクセスの不平等は、教育格差をさらに拡大させる懸念があります。

  • 検査・治療費の負担: 一部の検査機関が政府の料金規制を遵守しないなどの問題が発生しており、低所得層の子どもたちが適切な診断を受けられず、登校再開が遅れる事態が生じています。

  • 複合的な公衆衛生の脅威: 大気汚染(スモッグ)による休校措置とデング熱の流行が重なることで、子どもたちは二重の健康被害と教育の中断に直面しています。特にポリオ根絶活動など、他の保健課題とリソースを奪い合う状況が、子どものための包括的な保健サービスの質を低下させています。

4. まとめ

 子どもの視点から見たデング熱問題は、単なる公衆衛生上の課題にとどまらず、教育を受ける権利と健康に育つ権利を脅かす「教育危機」としての側面を強めています。今後は、学校施設における通年でのボウフラ駆除体制の確立と、感染や環境悪化による休校時でも学習を継続できる柔軟な教育支援体制の構築が不可欠です。

2026年4月14日火曜日

MHM及び防災教育調査実施可能性について①

本研究では、MHM(月経衛生管理)に関する追加調査、及び、防災教育に関するパイロット調査のために、女子宗教学校(マドラッサー)における今後の調査および事業実施の可能性を探るために、KP州アボタバードのあるマドラッサーを訪問しました。以下は、その結果です。

パイロット調査対象のあるマドラッサー


今回の訪問調査の結果に基づき、当該マドラッサーにおけるMHMおよび防災教育の調査実施可能性について検討したところ、現段階では極めて困難であるとの結論に至りました。その主な要因と今後の方向性は以下の通りです。

1. 外部組織に対する強い不信感と情報アクセスの制限

面談を通じ、校長をはじめとする施設側には、外国機関やNGO、政府機関といった外部組織に対する根強い抵抗感と不信感があることが確認されました。これらの訪問は機密情報の収集が目的であると警戒されており、校長は外部との情報共有に非常に消極的です。特に、面談中に特定の団体名を出すことがさらなる拒絶反応を招く恐れがあり、信頼関係の構築が困難な状況にあります。

2. 宗教的信念に基づく介入への拒否

MHM及び防災教育の両分野において、強固な宗教的信念が外部からの支援を拒む障壁となっています。

  • 防災教育: 「すべての結果は神(アッラー)によって定められる」という信念から、避難や予防措置といった行動を否定しています。また、災害時であってもベール着用(パルだー)の維持が優先され、屋外への避難を避ける傾向にあるなど、命を守るための物理的な安全確保と信仰が対立しています。

  • MHM: 生理用品や設備の提供は一切行われておらず、生徒は自助努力を強いられています。校長はこれらについても外部の介入は不要であると明言しており、女子生徒が不便を強いられている実態があるものの、制度的な改善を受け入れる余地が見られません。

3. 施設の脆弱性と制度的・財政的制約

マドラッサーの建物自体、壁の損傷や洪水被害など物理的な脆弱性が深刻です。しかし、テロへの懸念から公式な銀行口座の開設ができないといった制度的な制約があり、個人の口座で運営せざるを得ないなど、透明性や行政上の課題も抱えています。このような不安定な組織基盤は、継続的な支援事業を実施する上での大きなリスクとなります。

4. まとめ

以上の通り、情報共有への消極性、外部介入への拒絶、そして組織としての閉鎖性を考慮すると、当該施設でMHMや防災教育の調査を効果的に実施することは、現時点では現実的ではありません。


今後の予定としては、その他の2か所のマドラッサーを訪問し、調査が現実的かどうか、最終確認する予定です。

国際開発学会第27回春季大会:ラウンドテーブル発表

 国際開発学会 2026年度 第27回春季大会が2026年6月27日(土)に、 明治学院大学 白金キャンパスで開催されます。

ラウンドテーブル(RT)において、本研究代表の高柳妙子氏が座長を務め、研究協力者の池田直人押鐘サイエンスラボ)、磯部陽子(KRC)、堀場浩平(IDCJ)が発表します。

RTのタイトルは、「アジアにおける障害児のインクルーシブな教育と就労にかかる国際的介入への考察」です。

要旨は以下の通りです。

子どもたちの健康を脅かす要因と学校安全の視点

 パキスタンは世界的に見ても乳幼児死亡率が高い国の一つであり、毎日約675人もの新生児が命を落としているという厳しい現状があります 。こうした課題に対し、私たちはどのように向き合うべきでしょうか。最新の文献レビューに基づき、医療だけでなく「学校安全」や教育現場での取り組みという視点から、子どもたちの生存を支えるヒントを探ります。

 

1. 子どもたちの命を脅かす主な要因

これまでの研究では、5歳未満児の死亡原因が大きく4つのカテゴリーに分類されています 。

  • 周産期要因: 出生時の酸素不足(仮死)や早産、低出生体重など、出産直後のケアが命を左右します 。
  • 感染症: 肺炎、下痢症、敗血症、髄膜炎などが主要な死因となっており、不衛生な水や環境が影響しています 。
  • 栄養要因: 栄養不良は免疫力を低下させ、肺炎や下痢による死亡リスクを劇的に高めます。5歳未満児死亡の約45%に関与しているとの報告もあります 。
  • 環境・社会要因: 深刻な大気汚染や、適切な医療へのアクセス不足が背景にあります 。

 



2. 「学校安全」の視点からできること

学校は単に勉強する場所ではなく、子どもたちの「命の安全」を守る拠点でもあります。文献が示す死因の背景をふまえると、学校教育において以下の3つのアプローチが重要であると考えられます。

水衛生管理(WASH)と感染症予防

下痢症や肺炎などの感染症を防ぐためには、学校における安全な飲料水の確保と、トイレ設備の整備が不可欠です 。また、手洗いの習慣化といった衛生教育を徹底することで、学校を起点に家庭や地域全体の衛生環境を底上げしていくことが、子どもたちの生存率向上に直結します 。

栄養と健康のモニタリング

栄養不良は、子どもたちの健康状態を左右する「負の連鎖」の出発点です 。学校での健康診断や栄養価の高い学校給食の提供は、発育阻害や低体重のリスクを減らす重要な「学校安全」活動となります 。

環境教育と大気汚染への対策

パキスタンでは、5歳未満児死亡の約12%が大気汚染に関連しているとされています 。特にパンジャーブ州などの都市部では、有毒なスモッグが子どもたちの未発達な肺に深刻なダメージを与えています 。 学校においては、大気汚染が深刻な日の屋外活動制限や、マスク着用などの適切な防護策を指導する「防災」としての安全管理が求められます 。

 

3. まとめ:教育が未来の命を救う

文献レビューが強調する最も重要な事実の一つは、「母親の教育水準」が子どもの生存率に直結しているという点です 。 女子教育を推進し、学校で正しい保健・栄養知識を伝えることは、将来的に子どもたちの命を守る最も強力な手段となります 。

医療アクセスの改善といったインフラ整備はもちろん重要ですが、学校という現場で「安全・衛生・教育」を統合的に進めていくことが、パキスタンの子どもたちの未来を切り拓く鍵となるはずです。

 

参考文献:

  • Tharwani et al. (2023) "Infant & Child Mortality in Pakistan and its Determinants"
  • Nisar et al. (2017) "Cause of death in under 5 children in a demographic surveillance site in Pakistan"
  • Zainab et al. (2025) "Undesired nexus poor health status of child under-five"
  • Dhaded et al. (2022) "The causes of preterm neonatal deaths in India and Pakistan"
  • WHO (2025), UNICEF (2024) 報告資料

2026年4月6日月曜日

パキスタンにおける感染症:狂犬病

  インド・パキスタン亜大陸で最も軽視されている慢性風土病および予防可能な感染症の 1 つは狂犬病です。世界保健機関(WHO)によると、毎年55,000人以上が狂犬病で死亡しており、そのうち31,000人以上がアジアの、主に子どもたちです。パキスタンは狂犬病による死亡者数で世界上位にランクされています。

 パキスタンでは年間1,0005,000人が狂犬病で亡くなっていますが、監視体制の弱さなどから、報告されないケースも多く、実際の被害はさらに大きいと推測されています。野良犬が多いことも関連していて、適切なゴミ捨てが行われておらず、屋外へのゴミ放置が野良犬の繁殖を助長する一因となっています。また、パキスタンで発生している洪水のような災害時に狂犬病が増加するという報告もあります。

 カラチにおいて385世帯を対象とした調査では、狂犬病の原因がウイルスであると知っていたのはわずか12.2%で、人間の狂犬病症状を認識していたのは9.1%に過ぎませんでした。多くの被害者が犬に噛まれることを軽視し、適切な曝露後ワクチン接種(PEP)が遅れることで死亡率が高まっています。また、唐辛子や油を使った民間療法が依然として行われている点も問題視されています。

 以前はインドからワクチンを輸入していましたが、両国間の緊張により2019年以降、深刻な供給不足に陥っています。国内の国立衛生研究所(NIH)の生産量も需要に追いついていません。

 私たちの研究における対象地であるパキスタンのKP州では、過去前例のないペースで増加しています。2025年の報告件数は87,364件に達し、2024年の60,223件から約27,000件以上増加しました。特に、州都ペシャーワルでは、2024年はわずか655件でしたが、2025年には4,558件へと約7倍に急増しており、医療体制が比較的整っている都市部でも深刻な事態となっています。調査対象のハリプールでは3,895件、アボタバード2,683件が報告されています。

 このような状況を受けて、KP州では、狂犬病対策プロジェクトが実施されています。

活動内容は以下の通りです。

(1)   地方自治体による野良犬の個体数調査

(2)  Livestock & Dairy Development Research(畜産・酪農開発研究)によるディストリクト本部病院における手術室の強化/設置

(3)  地方自治体による野良犬の識別と捕獲

(4)  畜産・酪農開発研究による野良犬の不妊手術

(5)  畜産・酪農開発研究による野良犬へのワクチン接種

(6)  ディストリクト行政政によるディストリクト調整委員会

 

子どもたちの通学時の安全という視点では、犬の咬傷による狂犬病は大きな問題となります。

 

【参考文献】

Arif S, Ali K, Manzoor R, Quratulain, Khurram L and Malik M, 2023. RABIES- A Zoonotic Disease. In: AguilarMarcelino L, Zafar MA, Abbas RZ and Khan A (eds), Zoonosis, Unique Scientific Publishers, Faisalabad, Pakistan, Vol 3: 187-203. https://doi.org/10.47278/book.zoon/2023.96

Fatima, N. (2025). Rabies Remains a Persistent and Growing Public Health Challenge in Pakistan: Rabies Remains a Persistent and Growing Public Health Challenge. MARKHOR (The Journal of Zoology), 6(3), 01-02. https://doi.org/10.54393/mjz.v6i3.183

Ghanghro, A. & Jokhio, M. (2014) Epidemiology of dog bites during floods in District Naushahro Feroze, Sind, Pakistan, 2010, International Journal of Infectious Diseases, Volume 21, Supplement 1391

Global Alliance for Rabies Control (2025) Local: Control of Rabies Disease Through Neutering Techniques of Stray Canines at Divisional HQs of Khyber Pakhtunkhwa, http://rabiesalliance.org/world-rabies-day/event/control-rabies-disease-through-neutering-techniques-stray-canines-divisional

Kumar, H. & Bakhru, D. (2022 Rabies in Pakistan: A never ending challenge, Annals of Medicine and Surgery, Sep 16;82:104687. doi: 10.1016/j.amsu.2022.104687

Maqsood, A., & Alam, M. (2018). Epidemiology of rabies in Pakistan: A review of literature. Journal of Public Health and Nutrition, 1(2), 48–54.

Mughal FB, Ali BHI. (2018) Epidemiology of rabies in Pakistan: A review of literature. J Infectious Disease Med Microbiol. 2(1):18-21.

Mubashir, A. & Hussain, SA. (2020) Is Pakistan doing Enough to Eradicate Rabies by 2030?, Journal of the College of Physicians and Surgeons Pakistan 2021, Vol. 31(05): 614

National Commission on the Rights of Child (2025) KP records over 87,000 Dog Bite Cases this Year, The state of Children in Pakistan, https://stateofchildren.com/kp-records-over-87000-dog-bite-cases-this-year/

2026年4月2日木曜日

交通事故にあうリスクが高い障害児

 障害のある人々が交通事故にあう可能性が高いことは容易に想像できます。世界銀行(2024)は、「歩道、高架道路、地下道が混雑していたり、通行が困難であったり、信号や速度制限などの交通規制が不十分な場合、障害のある子どもや大人は道路に出たり、道路を横断するのに時間がかかったりする必要があり、その結果、自動車に衝突されるリスクが高まる」と報告しています。

 

パキスタンを含む中・低所得国においては、上記の世界銀行の報告にあるように、交通規制が不十分であることが多いと考えられます。Tabibi (2022)は、「注意欠如・多動症(ADHD)の子どもは、ADHDではない子どもよりも危険な横断回数が多く、さらに、ADHDではない子どもと比較して、ADHDの子どもは、より複雑な交通環境において、危険な横断回数が多く、接触までの時間が短く、待ち時間が長くなりました。ADHDの子どもの実行機能の欠陥は、複雑な交通環境における行動に影響を与えていると考えられます・」としています。

 

今回の記事では、パキスタンと同じ南アジアのネパールにおける研究「Shrestha, P. (2023) 障害者の道路横断待ち時間に関する調査」について簡単にご紹介します。Shrestha, P. (2023)は、カトマンズ盆地の幹線道路における、障害を持つ歩行者(PWD: People with Disabilities)の道路横断行動を分析し、インフラ改善に向けた基礎データを提供することを目的とした研究です。

 

ネパールの首都カトマンズの2か所を対象地域として、障害のある人、障害のない人を対象に、横断時の「判断(待ち時間)」や「行動(速度)」にどのような要因が影響しているかを科学的に明らかにしようとしています。調査法用は、ビデオによる観測と対面インタビューです。

 

対象地域は以下のような状況です。

特徴項目

対象地1: Jorpati

対象地2: Sanothimi

道路カテゴリ

F026 (Chabahil - Sankhu)

F086 (Sinamangal - Thimi)

主な対象者

肢体不自由者(車椅子利用者等)

視覚障害者(全盲の方)

歩道の幅員

2.5m

1.5m

路面・設備

誘導ブロックあり、縁石スロープあり

誘導ブロック破損、縁石スロープなし

横断歩道

表示が薄くなっている(Faded

表示は明確(Unfaded

特記事項

路上駐車があり、通行の妨げとなっている

排水溝の蓋が未整備な場所がある

 

以下に調査の結果をまとめます。

 

1. 障害の有無による待ち時間と横断確率の違い

コックス比例ハザードモデルを用いた分析により、障害のある歩行者は、健常者と比較して横断開始までに多くの時間を要することが明らかになりました。

  • 待ち時間の差: 障害のある歩行者の待ち時間の中央値は、非障害者よりも36秒長くなっています。これは、安全確認に慎重を期す必要があるためと考えられます。
  • 横断開始の確率(ハザード比): 同様の交通条件下で、非障害者100人が横断を開始する間に、横断を開始すると予想される人数は以下の通りです。
    • 視覚障害者: 48
    • 肢体不自由者: 2938
  • 行動特性の違い: 視覚障害者は、視覚情報の欠如による不安から、時として積極的(あるいは切迫した)行動をとる傾向があります。一方で、肢体不自由者は補助器具の使用や移動制限のため、環境評価により多くの時間を費やす傾向が見られます。

 

2. 横断速度の比較

歩行タイプによって横断速度には明確な差が出ています。

歩行者のタイプ

平均横断速度 (m/s)

非障害者

1.265

障害者

視覚障害者

0.98

車椅子利用者

0.88

身体障害(その他)

0.806

松葉杖利用者

0.77

3. 横断に影響を与える外部要因

交通ギャップ(車両間の間隔)と遭遇する車両台数が、横断の意思決定に大きく関与しています。

  • 交通ギャップ(Traffic Gap:
    • 対象地1では、ギャップが1秒増えるごとに横断確率は8.1%増加しました。
    • 肢体不自由者はより広いギャップを必要とする一方、視覚障害者は聴覚や触覚を頼るため、ギャップの変動による影響が相対的に少ない傾向があります。
  • 車両台数(Vehicle Encountered:
    • 交通量が増えると横断確率は低下します。1台増えるごとに、対象地1では15.6%、対象地 2では28.7%横断確率が減少しました。
    • 特に対象地2で減少幅が大きいのは、車両の走行速度が対象地1よりも高いためと考えられます。
  • 環境要因:
    • 大型車両が多い場合や、違法駐車がある場所(対象地1)では、歩行者はより慎重になり、大きなギャップを待つ傾向が強まります。

 

4. Shrestha, P. (2023)のまとめ

障害のある歩行者にとって、インフラのパターンよりも「交通量」や「車両間のギャップ」が待ち時間を決定する重要な要素となっています。特に身体的制約がある歩行者は、非障害者よりも大幅に低い速度で移動し、より慎重な判断を下している実態が浮き彫りになりました。

 

【参考文献】

Shrestha, P. (2023) Study on waiting time for street crossing by Person with disability, A case study of midblock crossing at Jorpati and Sanothimi, A Thesis Submitted To The Department Of Civil Engineering In Partial Fulfullment Of The Requirements For The Degree Of Master Of Science In Transportation Engineering, Tribhuvan University, https://elibrary.tucl.edu.np/JQ99OgQIizUxyjI9nB0on9OyLkqsGIf4/api/core/bitstreams/9734f6de-deb6-4034-a264-87f90ab34732/content

Tabibi, Z., Schwebel, DC. and Zolfaghari, H. (2022) Road-Crossing Behavior in Complex Traffic Situations: A Comparison of Children With and Without ADHD, Child Psychiatry Hum Dev. 2022 Dec;53(6):1186-1193. doi: 10.1007/s10578-021-01200-y.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34106381/

ADHDの子どもは、定型発達の子どもよりも危険な横断回数が多く、さらに、定型発達の子どもと比較して、ADHDの子どもは、より複雑な交通環境において、危険な横断回数が多く、接触までの時間が短く、待ち時間が長くなりました。ADHDの子どもの実行機能の欠陥は、複雑な交通環境における行動に影響を与えていると考えられます。

World Bank (2024) Disability and Road Traffic Accidents Assessing the Costs and Consequences of Rehabilitation and Living with a Disability Following a Road Traffic Injury, https://documents1.worldbank.org/curated/en/099091324114514561/pdf/P1721241108a2202a1af741bfbc84c81e12.pdf?form=MG0AV3

P38:歩道、高架道路、地下道が混雑していたり、通行が困難であったり、信号や速度制限などの交通規制が不十分な場合、障害を持つ子供や大人は道路に出たり、道路を横断するのに時間がかかったりする必要があり、その結果、自動車に衝突されるリスクが高まる (World Report on Disability, 2011; WHO, 2022; Xiang et al., 2006)

WHO & World Bank (2011) World Report on Disability, https://documents1.worldbank.org/curated/es/665131468331271288/pdf/627830WP0World00PUBLIC00BOX361491B0.pdf

障害のある人は、交通事故、火傷、転倒、補助器具に関連する事故による、致命的ではない偶発的な傷害のリスクが高くなります。ある研究では、自閉症、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害のある子供は、そうでない子供よりも傷害のリスクが 2 3 倍高いことがわかりました。他の研究では、障害のある子供は転倒 (52)、火傷関連の傷害 (53)、自動車や自転車の衝突による傷害 (54) のリスクが著しく高いと結論付けています。

WHO (2022) Global Report on Health Equity for Persons with Disabilities, https://www.who.int/publications/i/item/9789240063600

Xiang et al. (2006) “Risk of Vehicle-Pedestrian and Vehicle-Bicyclist Collisions Among Children with Disabilities.” Accident Analysis

社会的脆弱グループ関連情報:パキスタン経済白書2025-2026

今回の記事では、新たに発表された「 パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026) 」の記載内容の中で、社会的脆弱グループに関する記述に焦点をおいて紹介していきます。 パキスタン政府は経済調整や外部ショックが国民の福...