2026年8月29日土曜日

パキスタンの教育コンテンツ『Pakkay Dost』

 本日の研究ブログでは、パキスタンで大きな話題を呼んでいる子ども向け教育人形劇番組『Pakkay Dost(パッケイ・ドースト:ウルドゥー語で「親友たち」の意味)』を取り上げます。本記事では、『Pakkay Dost』の実践を手がかりに、脆弱層に向けた包括的な学校安全のあり方を考察します。

1. 多角的な「学校安全」の概念とパキスタンの課題

UNESCOやUNICEFが推進する包括的学校安全枠組み(Comprehensive School Safety Framework: CSSF)では、学校安全を「安全な学習施設」「学校災害管理」「安全予防教育」の3つの柱で定義しています。しかし、途上国や紛争・災害リスクの高い地域において、障害児や少数言語グループなどの「脆弱層」は、緊急時や日常の教育現場において置き去りにされやすい実態があります。

パキスタンにおいても、聴覚障害児が必要な防災・安全情報から取り残されたり、言語の壁や社会的な偏見によって保護・支援の対象から漏れてしまうケースが指摘されてきました。

2. パキスタン手話(PSL)導入が果たす「情報保障と生活安全」

『Pakkay Dost』が障害者を支援する団体ConnectHearと提携し、PSLによる通訳画面を標準搭載した取り組みは、「情報の障壁を取り除くことで子どもの安全を守る」観点から極めて高い意義を持ちます。

  • 緊急・防犯メッセージの届きやすさ: 日常の教育動画を通じて、危険回避や身体の保護に関するメッセージをろう・難聴児にも過不足なく伝達

  • 孤立とリスクの軽減: 家庭や学校で孤立しやすい障害児に対し、手話を通じて社会的認知とコミュニケーション能力を育み、被害防衛力を向上

  • インクルーシブな環境形成: 障害の有無に関わらず児童生徒が同じコンテンツを共有することで、相互理解が深まり、いじめや暴力を防止する安全な心理的環境を醸成

ConnectHearの共同創設者アーラム・イシュティアーク(Arham Ishtiaq)氏が述べるように、「誰も取り残さない世界」の構築は、教育エンターテインメントにおける安全保障の要となります。

3. 日常の倫理観と社会的安全:動物愛護・他者配慮の教育

学校安全のもう一つの重要要素は、暴力を未然に防ぎ、互いを尊重する「平和で安全な文化」の構築です。番組内では、動物に対する優しさや配慮(Kindness to animals)、適切な対人コミュニケーションをテーマにした楽曲やストーリーが多数取り入れられています。

生命や弱い立場にある存在(動物や他者)を思いやる心を日常から育てることは、学校空間におけるいじめや非行、他者加害を防止する「予防的安全教育」として機能します。

4. 結論:包摂的な学校安全の実現に向けて

教育人形劇『Pakkay Dost』の事例は、脆弱層の学校安全を実現するためには、ハードウェア面の整備だけでなく、メディアやデジタル技術を活用した「情報のバリアフリー化」「言葉・文化の包括」「他者理解の推進」というソフト面のアプローチが不可欠であることを提示しています。

あらゆる子どもたちが、身体的・情報的・心理的なリスクから守られ、安全に学べる環境を整備すること——それこそが、持続可能で質の高い教育開発(SDG4)の基盤となります。

参考ウェブサイト

2026年8月26日水曜日

小児・思春期における砂糖摂取と肥満リスク

 本日は「小児・思春期における砂糖摂取と肥満リスク」に関する最新文献をレビューし、特に「学校安全」という視点を交えながら、子どもたちの健やかな成長を守るための課題とアプローチについて解説します

学校安全といえば、交通事故防止や防犯、防災対策を思い浮かべがちですが、子どもの「生涯にわたる健康と生命を守る安全(食の安全・生活習慣病予防)」の確保も、包括的な学校安全(学校保健・安全)における極めて重要な柱です。グローバルな知見や地域固有の実態から、私たちが学べる点について整理しました

1. グローバルな背景:過剰な砂糖摂取と小児肥満の世界的拡大

世界保健機関(WHO)の報告によると、5歳未満の乳幼児で約3,800万人、5〜19歳の小児・思春期世代では約3億4,000万人が過体重や肥満の影響を受けています。小児期・思春期における肥満の増加は、若年発症型の2型糖尿病や心血管疾患といった非感染性疾患(NCDs)のリスクを直接的に高める深刻な問題です

システマティック・レビューおよびメタ解析(Te Morenga et al., 2013)をはじめとする世界的エビデンスによると、自由な食事環境において遊離糖類(free sugars)や加糖飲料(Sugar-Sweetened Beverages: SSBs)の摂取を減らすことで有意な体重減少が得られる一方、その摂取増加は明確な体重増加を引き起こすことが実証されています

この影響は、特定の生理作用というよりも、主に総エネルギー摂取量(カロリー)の変動によるものです。特に清涼飲料水などの液体状の糖類は、固形物と比較して満腹感が得られにくく、無意識のうちに過剰なカロリー摂取につながりやすい特徴を持っています

2. 米国等における国際的なアプローチ:「学校環境」を通じた安全対策

このような科学的根拠に基づき、諸外国の学校保健施策では子どもの食環境改善が進められてきました。米国小児科学会(AAP)の政策声明(Council on School Health & Committee on Nutrition, 2015)では、子どもの1日のエネルギー摂取量の約4割を占める学校環境の重要性が強調されています

【学校安全の視点①】生活習慣病リスクからの防護と食の環境整備

米国では「Smart Snacks規格」などを通じた競合食品の規制や、単に特定の食品を排除するだけでなく、栄養密度(Nutrient Density)の高い食品を選択できるようにする食環境づくりが提言されています。学校という生活基盤の中で健康的で安全な選択ができる環境を整えることは、子どもを生活習慣病という脅威から防護する「生活安全・健康安全」の基本理念と合致しています

3. パキスタンの地域固有の課題:文化・家庭環境と手作り伝統的飲料の影

一方、発展途上国や地域ごとの課題に目を向けると、より複雑な実態が浮かび上がります。パキスタンでは、成人の糖尿病罹患率が31.4%(2024年時点)と世界最高水準に達しており、思春期世代における過体重や2型糖尿病の拡大が顕著です

全国調査データ(Afaq et al., 2025)によると、10〜16歳の思春期世代の70.5%が週7回以上の頻度で何らかのSSBを消費しています。特に注目すべきは、市販の缶・ペットボトル飲料(高消費率17.3%)以上に、家庭や地域で手作りされる伝統的な甘味飲料(砂糖入りのチャイ、甘い牛乳、ラッシー等:高消費率38.2%)が主要な砂糖摂取源となっている点です

さらに、保護者の意識構造に関する研究(Hudaib et al., 2024)では、調査対象児童の49.2%が過体重・肥満に該当していました。多くの母親は肥満の科学的リスクを認知しつつも、「肥満は成長とともに自然に消える」という誤解や体型認識の不足を残しており、親族からのプレッシャーや社会的スティグマ(96.9%が目撃・経験)が存在することも行動変容の障壁となっています

4. まとめ:「学校安全」の視点から捉える包括的リスク管理

以上の知見を踏まえると、欧米主導の「学校内での清涼飲料水販売規制」といった単一の学校ベース介入だけでは、子どもの健康安全を守るには不十分であることが分かります。パキスタンの事例で示されたように、非通学の若者(Out-of-school)におけるリスクの高さや、家庭内での伝統的飲料への依存を考慮すると、学校と家庭・地域コミュニティが一体となった多角的なアプローチが不可欠です

【学校安全の視点②】学校・家庭・地域が連携する包括的安全マネジメント

学校安全の達成には、校内での安全確保だけでなく、家庭や地域社会への教育・啓発活動が不可欠です。本レビューから導き出される今後の課題と方向性は以下の通りです

  • 制度・法的措置の推進: SSB課税やパッケージ正面への明確な栄養表示(FOPNL)など、社会全体での安全な選択を促す環境整備

  • 家庭・保護者への栄養教育: 食事選択や調理に大きな影響力を持つ保護者(特に母親)へ対し、家庭での加糖を減らす文化的適応型の食育・健康教育を実施

  • 包括的な学校保健・安全の推進: 伝統的習慣と商業的要因の双方に配慮し、通学児・非通学児の双方が安全で健康的な食生活を送れる支援体制の構築

子どもたちの命と健康を長期的に守るためにも、「学校安全」の概念を身体的事故の防止だけでなく、「健康的で安全な食環境の保障」へと広げ、学校・家庭・行政が連携した取り組みを加速させることが求められています

参考文献

  • Afaq, S., Chandrasenage, D., Ashfaq, U., Farzeen, M., Iqbal, R., Suhrcke, M., Siddiqi, K., Kanaan, M., & Zavala, G. A. (2025). Consumption of commercial and traditional sugar-sweetened beverages among adolescents in Pakistan: Evidence from a national survey. Frontiers in Nutrition, 12, Article 1679917. https://doi.org/10.3389/fnut.2025.1679917

  • Council on School Health, & Committee on Nutrition. (2015). Snacks, sweetened beverages, added sugars, and schools. Pediatrics, 135(3), 575–583. https://doi.org/10.1542/peds.2014-3902

  • Hudaib, M., Hussain, L., Nazim, L., Mohi Uddin, S., Jamil, M. U., Bham, S. Q., Malik, H., Rehman, A., Malik, U., Manahil, Umais Ahad, A., Mughal, S., & Eljack, M. M. F. (2024). Understanding childhood obesity in Pakistan: exploring the knowledge, attitudes, practices of mothers, and influential factors. A cross-sectional study. Frontiers in Public Health, 12, Article 1475455. https://doi.org/10.3389/fpubh.2024.1475455

  • Te Morenga, L., Mallard, S., & Mann, J. (2013). Dietary sugars and body weight: Systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials and cohort studies. BMJ, 345, e7492. https://doi.org/10.1136/bmj.e7492

2026年8月23日日曜日

食の安全から子どもたちを守るために ―世界の課題とパキスタンの実態から考える給食・家庭での食品安全―

 先日、「170以上の食用油、ギー、牛乳のサンプルが国家品質基準を満たしていない。」というタイトルのパキスタンのニュースがありました。


今回は、世界保健機関(WHO)などの最新文献から見えてきた「世界の食品安全の現状」と「子どもたちへの健康影響」についての研究成果をご紹介します。

普段、学校や家庭で何気なく口にしている食べ物ですが、実は子どもたちの健康や成長に大きな影響を与えています。学校で児童・生徒の安全を守る「学校安全」の観点からも、食の安全は決して無視できない重要なテーマです。

1. 世界で起こっている食中毒と子どもへのリスク

WHO(世界保健機関)の調査によると、不安全な食品(細菌・ウイルス・化学物質などに汚染された食べ物)によって、世界中で毎年約8億6,600万人(人口の約9人に1人)が病気になり、152万人もの方々が亡くなっています。

特に深刻なのは、被害の約3割(29%)が5歳未満の乳幼児に集中しているという点です。2021年には、世界で約14万3,000人の乳幼児が汚染された食品によって命を落としました。

なぜ、子どもたちに被害が集中してしまうのでしょうか?

  1. 身体機能が未発達であること

    子どもは大人に比べて免疫力や毒性を分解する機能(解毒代謝機能)がまだ十分に育っていません。

  2. 体重あたりの摂取量が多いこと

    大人に比べて体が小さいため、同じ量の汚染物質を口にしても、体重あたりの摂取量が多くなり、強い影響を受けてしまいます。

また、お腹を壊すことで栄養が十分に吸収できず、栄養失調になり、さらに免疫が落ちて病気になりやすくなるという「病気と栄養失調の悪循環」に陥ることも指摘されています。

2. パキスタンの事例:牛乳や粉ミルクに潜む危険

低中所得国における食の安全の具体例として、パキスタンの実態調査を見てみましょう。

① 品質基準を満たしていない食品が多数

パキスタン政府等の調査によると、市販されている食用油や牛乳などのサンプル491件のうち、約36%(176件)が国の品質基準を満たしていませんでした。特に、粉ミルクでは約44%、市販の牛乳などでも約25%〜48%が不適合という結果が出ています

② カビ毒「アフラトキシン」の検出

さらに懸念されるのが、カビが作り出す毒素「アフラトキシン」です。この毒素は発がん性を持つだけでなく、子どもの身体的な発育不全(成長障害)を引き起こす原因にもなります。

パキスタンの研究では、粉ミルクを飲む乳幼児(1歳児・5歳児)は、大人に比べて約2倍〜4倍以上のアフラトキシンを日常的に摂取してしまっていることが分かりました。市販の粉ミルクの半分(50%)から国際基準を超えるアフラトキシンが検出されたためです。

3. 学校安全の視点から考える「食の安全」

学校は、子どもたちが一日の多くの時間を過ごし、集団で食事(給食)をとる場所です。今回の研究データは、学校における安全管理体制にも重要なヒントを与えてくれます。

  • 徹底した衛生管理と温度管理(コールドチェーン)

    細菌やウイルスによる食中毒を防ぐためには、調理現場での衛生管理はもちろんのこと、食材の保管・配送時の適切な温度管理が欠かせません。適切な管理(高温殺菌処理や事前検査)を行っている牛乳メーカーの製品は、汚染リスクが大幅に低くなることが実証されています。

  • 原材料の品質と安全基準の確認

    学校給食等で提供される食材(牛乳や加工食品など)については、信頼できる供給元からの調達と、厳格な品質確認が求められます[cite: 1]。子どもは有害物質の影響を受けやすいため、大人の基準以上に安全な食材を選ぶ視点が不可欠です。

  • 食育を通じた「自分の身を守る手洗い・知識」

    WHOは食中毒予防のために「清潔の保持」などを呼びかけています。学校での食育を通じて、子どもたち自身が手洗いを徹底したり、安全な食事に関する知識を身につけたりすることも学校安全の大切な一環です。

まとめ

食の安全は、単なる「お腹を壊さないための注意」にとどまらず、子どもたちの健全な成長や命に直結する非常に重要な課題です。

学校や家庭においても、今回の研究結果を参考に、「安全な食材選び」「適切な衛生・温度管理」「手洗いなどの基本の徹底」を改めて意識していきたいです。

参考文献

2026年8月21日金曜日

脆弱層の子どもの「学校安全」を考える ― 発達する能力の視点から ―

 子どもが学校に通い、安心して学び続けるためには何が必要でしょうか。最新のUNICEF(2026)の報告書『Growing with Rights』では、子どもの教育を受ける権利(就学保障)を支える実質的な基盤として「学校安全」の重要性が強調されています


今回は、資料をもとに「学校安全」のポイントを簡潔にご紹介します

1. はじめに:学校安全と子どもの発達

子どもの成長に伴い、思考力や感情のコントロール力、自律性は段階的に発達していきます。国連「子どもの権利条約」第5条が掲げる「発達する能力(Evolving Capacities)」という概念は、子どもが成長に応じて自らの権利を行使できるよう、大人が適切な助言と保護を行いながら自主性を育むことの重要性を示しています。

学校は、子どもが家庭から社会へと視野を広げ、対人関係や社会性を育む中核的な場です。しかし、貧困、障がい、少数民族、移民・難民といった背景から「脆弱な立場」に置かれた子どもたちにとって、学校における安全の確保は、日々の学びや健全な発達を支えるための不可欠な前提条件となります。

2. 脆弱層の子どもが直面する学校における安全上の課題

資料によると、世界各地の学校現場では依然として以下のような深刻な安全上のリスクが存在しています:

  • 身体的・精神的暴力: 地域によっては過半数あるいは3人に1人以上の子どもが学校で身体的攻撃を経験しており、不適切な体罰(Corporal Punishment)や暴言は子どもの健全な成長を阻害しています。

  • いじめとサイバー暴力: 仲間内でのいじめや心理的ハラスメントは世界的に頻発しており、近年ではSNSやオンライン空間におけるサイバー暴力が増加しています。特に女子児童・生徒はオンライン上の暴力やハラスメントの標的になりやすい傾向が指摘されています。

  • 社会的排除と差別: 障がいのある子どもやマイノリティ、貧困世帯の子どもは、安全なバリアフリー環境や配慮が欠如している場合、容易に無視や差別、孤立に晒されます。

3. 安全の欠如が子どもの発達と主体性に与える影響

学校環境における暴力や日常的な強いストレス(毒性ストレス)は、子どもの脳の発達や「実行機能」(自己制御力、注意持続力、意思決定能力)に深刻な悪影響を与えます。

  • 学力低下と退学リスクの増加: 不安や恐怖がある環境では集中力が削がれ、学習機会の喪失や中退につながります。

  • 心理的トラウマと自尊心の低下: 継続的なハラスメントは自尊心を傷つけ、長期的なメンタルヘルスの悪化を引き起こします。

  • 主体性(Agency)の発揮の阻害: 安全が脅かされている状況では、子どもは自己防衛に追われ、自らの意見を述べたり決断を下したりする「発達する能力」を伸ばす機会を奪われます。

4. 脆弱層の子どものための「権利に基づく学校安全」の構築

子どもを単に守られるだけの存在(被保護者)として扱うのではなく、自らの安全を守るための「主体(Active Participant)」として尊重する包括的なアプローチが求められています。

  1. 包括的な法的・制度的保護: 学校での体罰の全面禁止、いじめ防止規定の策定、ジェンダーや障がいに配慮した安全なインフラと安心できる通報・相談窓口を整備すること。

  2. 子どもの意見表明権(第12条)の尊重: 脆弱な立場にある子どもたちが、学校生活の安全やルール作りに関して、自身の経験や意見を安心して述べられる参加の機会を設けること。

  3. 安心できる学習と対話の環境作り: 相互尊重を学ぶ参加型・遊びを取り入れた学習などを通じて、感情コントロールや社会的スキル、対話力を育むこと。

5. まとめ:保護と主体性の調和に向けた未来

脆弱層の子どもたちにとって、学校安全は単なる「危険の排除」にとどまらず、「安心して学び、自分の意見を言い、自分らしく成長できる環境の保障」を意味します。

大人は過剰な管理や抑圧によって子どもの声を閉ざすのではなく、適切な保護と意思決定への参加のバランスを保ちながら、子ども一人ひとりの「発達する能力」を力強く支えていくことが重要です。

参考文献 

UNICEF Innocenti. (2026). Growing with rights: Understanding and supporting the evolving capacities of the child. UNICEF Innocenti Global Office of Research and Foresight.

2026年8月12日水曜日

気候危機と「脆弱層の子どもの学校安全」

 近年の気候変動と環境破壊は、世界中のコミュニティに甚大な被害をもたらしていますが、その悪影響を最も直接的かつ重篤に受けているのは「子どもたち」をはじめとする脆弱層です。特にパキスタンでは、繰り返される大洪水や深刻化する大気汚染(スモッグ)によって、子どもたちの健康だけでなく、学習の機会そのものが脅かされる事態が頻発しています


今回の記事では、最新の「WWF-Pakistan 年次報告書 2025」のデータをもとに、気候・環境危機が子どもの教育環境にいかなる影響を与えているのかを整理し、自然を活用した解決策(NbS: Nature-based Solutions)やコミュニティ主導のアプローチによる「学校安全(School Safety)」の最新動向について解説します


1. 子どもたちの学びと健康を脅かす3つのリスク

パキスタンでは、激化する気候変動や環境汚染により、最も脆弱な立場にある子どもたちの教育と健康が危機に瀕しています

  • インフラ被災と避難所化: 大洪水により校舎が倒壊・浸水するだけでなく、避難所として長期間利用されることで復旧後も授業再開まで時間がかかっています

  • スモッグと熱波による休校: 深刻な大気汚染(PM2.5等)や夏季の異常高温により自治体規模で閉鎖が相次ぎ、継続的な学びの機会が奪われています

  • 感染症と栄養不全: 水質汚染による下痢症・コレラの増加や、気候災害による家庭の食料不安(発育不全の深化)が重篤化しています


2. WWFが推進する「学校安全」の具体策

WWF-Pakistanは、自然を活用した解決策(NbS)や衛生環境の改善を通じ、災害に強い学校環境を構築しています

  • 12.4万 haの湿地・森林回復: 洪水や浸水のリスクを自然の機能で緩和

  • 7.6万 sq ftの都市緑地化: 熱波や大気汚染(PM2.5)の影響を軽減

  • 800以上の節水・涵養対策: 災害時にも安全な飲用水と衛生環境(WASH)を確保


主なアプローチ

  • 生態系を活用した校舎防護(EbA/NbS): 校庭周辺の植林や雨水貯留システムの設置により、浸水・土砂流出を抑えます

  • 気候耐性型WASHの整備: 災害に強い給水・衛生施設を設置し、手洗い教育と組み合わせて感染症を防ぎます
  • 「クリーンエア」政策提言: 大気汚染データの分析から農業残渣の焼却防止などを自治体に提言し、学校周辺の緑化で児童の呼吸器健康を守ります


3. ユースの育成とコミュニティ連携

  • 防災教育とエンパワーメント: 「Spellathon」(8,500名参加)や「Eco-Internship」(1,806名参加)を通じ、子どもたちが自らリスクに対応できる能力を育んでいます

  • 学校を「地域の適応ハブ」へ: 「気候危機チャーター」のもと、学校を地域全体の防災拠点と位置付け、自治体や保護者と連携して安全を維持しています


まとめ

子どもの学校安全を守るには、校舎の補強にとどまらず、「自然の防護機能(NbS)」「WASH整備」「環境教育」を統合した地域ぐるみの包括的アプローチが重要です


参考文献

WWF-Pakistan. (2025). WWF-Pakistan annual report 2025.

Sight Savers Pakistanの取り組み

数字の背後に隠された「学校安全」の課題 国際支援や教育開発の議論において、パキスタンの教育危機は「未就学児の多さ(約2,620万人)」という数字で語られがちです。しかし、真の教育危機は単に「学校に通っていないこと」にとどまりません。子どもが学校に入学できたとしても、そこが物理的・...