今回はパキスタンなどの研究文献をもとに、脆弱層の子どもたちが置かれている現状と、学校安全の観点から果たすべき役割について解説していきます
1. 脆弱層(要配慮集団)の子どもたちが直面する「二重・三重のバリア」
一連の研究(Abdalla & Mohamed, 2022; Hamid, 2019; Rizvi & Bashir, 2015など)では、家庭環境や身体的・精神的状況によって、子どもの健康状態に大きな差が生じていることが明らかになっています
① 貧困層の子どもたち
保護者の所得や教育水準が低い家庭では、日々の生活で衛生資材(歯ブラシやフッ素入り歯磨き粉)を購入・定期交換することが困難です
② 障害のある子どもたち
身体障害や発達障害、コミュニケーションのバリアを持つ子どもたちは、自力での適切な歯磨きが難しかったり、保護者の介護負担からケアの優先順位が下がってしまったりすることがあります(Abdalla & Mohamed, 2022)
③ 複合的なリスク(交差性)
特に「低所得層」であり、かつ「障害を持っている」というような複合的なリスク(交差性)を抱える子どもたちは、受診アクセスの壁や費用の問題が重なり、必要なケアから最も取り残されやすい現状にあります(Abdalla & Mohamed, 2022; Hamid, 2019)
2. なぜ口腔保健が「学校安全」につながるのか?
「学校安全」といえば、防犯や防災、怪我の予防などを思い浮かべがちですが、広義には「子どもたちが心身ともに危険や苦痛から守られ、安心して教育を受けられる環境を整えること」も含まれます
未治療の口腔疾患は、この「学校での安全性と安心感」を揺るがす大きな要因となります
身体的苦痛からの保護:慢性的な強い歯の痛みは、子どもの集中力を奪い、精神的ストレスを引き起こします
。痛みを我慢しながらの学校生活は、子どもにとって安全で快適な環境とは言えません 。 欠席・中退リスクの低減:痛みが原因で学校を休まざるを得なくなると、学習の遅れや不登校につながり、子どもの「学びの安全網」が崩れてしまいます
。 早期発見とリスク回避:予防的な検診が約10%にとどまり、痛んでからの受診が大半(97%以上が未治療放置)である現状(Dawani et al., 2012; Hamid, 2019)において、定期的な観察が行われる学校は、重症化や怪我・感染症リスクを未然に防ぐ安全策(セーフティネット)として機能します
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3. 「安全な学びや」としての学校基盤型アプローチ
医療体制やリソースが限られている低中所得国において、病院での受診を家庭だけに委ねる予防戦略には限界があります(Dawani et al., 2012)
すべての児童が平等に通う「学校」を拠点に口腔保健に取り組む「学校基盤型アプローチ(School-based approach)」は、特に脆弱層の子どもたちを守るための格好のセーフティネットとなります(Chandio et al., 2026; Dawani et al., 2012)
格差を埋める:家庭の経済状況や保護者の知識水準に関わらず、学校に集うすべての子どもたちへ一律に歯磨き指導や予防啓発を提供できます
。 日常的な習慣化と見守り:教員の協力を得て、日常のカリキュラムの中に衛生習慣(歯磨き指導など)を組み込むことで、「知識はあるが行動できない(Knowledge-Practice Gap)」状態を改善します(Chandio et al., 2026; Dawani et al., 2012)
。 要配慮児童への包括的サポート:障害児を含む多様なニーズに配慮したプログラムを学校現場に導入することで、取り残されがちな子どもたちの健康面での安全を確保できます(Abdalla & Mohamed, 2022; Dawani et al., 2012)
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4. 今後求められる視点と課題
今回の文献レビューでは、脆弱層の保護と学校安全をさらに強固にするために、以下の研究・実践が急務であることが提示されています
極貧農村部や遠隔地への調査拡大:大都市圏中心の調査から脱却し、よりインフラの未整備な地域の脆弱層児童の実態を把握すること(地域偏重の解消)
。 ジェンダー(性差)に起因する安全・健康リスクの解明:家庭内のリソース分配や女子児童の通学・受診行動に影響するジェンダーギャップの検証
。 交差性(Intersectionality)に着目した実証ケア:「障害×貧困」「難民×未就学」など、重層的な脆弱性を抱える子どもたちへの現場介入プログラムの構築
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まとめ
子どもたちの「学校での安全」を守るということは、単に事故を防ぐことだけではありません
医療と教育が連携した「学校基盤型アプローチ」を充実させ、脆弱な立場にある子どもたちを包み込むセーフティネットを作っていくことが、これからの社会に強く求められています
参考文献
Abdalla, E., & Mohamed, H. (2022). Oral health status of children with disabilities: A review of literature. Acta Scientific Dental Sciences, 6(11), 25–31.
https://doi.org/10.31080/ASDS.2022.06.1486 Chandio, K. A., Ikram Ullah, A., Farrukh, M., Anas, M., Zubair, Y., & Hamad Jaber Amin, J. (2026). Oral health awareness and hygiene practices among Pakistani children: A cross-sectional survey. Frontiers in Oral Health, 6, Article 1709750.
https://doi.org/10.3389/froh.2025.1709750 Dawani, N., Qureshi, A., & Syed, S. (2012). Integrated school-based child oral health education. Journal of the Dow University of Health Sciences, 6(3), 110–114.
Hamid, S. (2019). Oral health disparities in 6-9 years old Pakistani school going children. Asian Journal of Pharmacy, Nursing and Medical Sciences, 7(1), 1–6.
Rizvi, K. F., & Bashir, R. (2015). Oral health status in public school children. Pakistan Oral & Dental Journal, 35(4), 649–652.