2026年6月18日木曜日

社会的脆弱グループ関連情報:パキスタン経済白書2025-2026

今回の記事では、新たに発表された「パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026)」の記載内容の中で、社会的脆弱グループに関する記述に焦点をおいて紹介していきます。



パキスタン政府は経済調整や外部ショックが国民の福祉に与える影響を注視し、脆弱層の保護や人的資本、気候変動への回復力に対する優先的な支出を維持しています。

1. 教育分野の進展と不就学児童の減少

教育へのアクセスは全般的に改善傾向にあります。

  • 識字率・就学率の向上: 全国の識字率は2022-23年度の61%から2024-25年度には63%へと向上しました(男性73%、女性54%)。また、全国的な就学率も61%から67%へと上昇しています。

  • 不就学児童・生徒(OOSC)の減少: 2023年の38%(男子35%、女子42%)から2025年には28%(男子25%、女子31%)へと大幅に減少しました。特にバローチスターン州では69%から45%へと劇的な改善が見られたほか、パンジャーブ州(32%→21%)、シンド州(47%→39%)、KP州(30%→28%)でも同様の進展が確認されています。

  • 各教育段階の状況: 2024会計年度の初等教育在籍者数は2,538万人に達し、中等教育は14.9%増の1,080万人へと大幅に増加しました。また、雇用の基盤となる技術・職業教育(4,746校)には46万人が在籍し、重要な役割を果たしています。

2. 児童婚や家庭内暴力への法的アプローチ

ジェンダー平等の推進や人権保護の観点から、法的な救済措置の強化が進められています。連邦直轄地(ICT)において、「2025年連邦直轄地児童婚制限法」「2026年連邦直轄地家庭内暴力法」といった重要な立法措置が制定され、司法へのアクセス改善や制度的メカニズムの強化が図られました。

3. 社会的脆弱層への保護・支援の拡充

パキスタン・ベイトウル・マール(PBM)、ザカート、労働者福祉基金(WWF)、従業員老齢給付機関(EOBI)、パキスタン貧困削減基金(PPAF)などの主要機関が、福祉交付金や年金、コミュニティ・インフラを通じて多面的な支援を展開しています。

  • PBM(パキスタン・ベイト・ウル・マール): 2025年7月から2026年3月にかけて、未亡人、孤児、障害者、高齢者などの基本的な福祉ニーズ(医療、食糧、住居、技能開発など)を満たす支援を継続しました。2026会計年度予算142億ルピーのうち100億ルピーが援助に充てられ、同期間中に321万8,000人の受益者に対して65億6,000万ルピーが支給されました。

  • PPAF(パキスタン貧困削減基金): 保健分野では15カ所の保健センターを通じて7万件以上の診療を行ったほか、2025年の洪水対応として124回の医療キャンプを開設し、4万7,926人を診療しました。教育分野では2,868カ所の教育施設を支援し、約1万人の視覚・聴覚障害児を含む43万3,300人以上の就学を促進しています。さらに、3万9,000人以上の障害者(うち49%が女性)に補助器具を提供し、社会包摂を後押ししています。

4. ジェンダーに配慮した包括的な防災体制

国家災害管理局(NDMA)は、保健、教育、社会保護、気候変動を網羅する形で、ジェンダーや社会的弱者に配慮した防災体制を強化しています。 これには、緊急事態におけるジェンダーに基づく暴力(GBViE)に関する研修、学校の安全対策、脆弱層へのRFIDを活用した支援、包括的な早期警報システム、トランスジェンダーや障害者を対象とした政策改革などが含まれます。また、2026年3月までに「災害リスク軽減(DRR)バッジ・イニシアチブ」を通じて、2,645人のガールガイドが研修を修了しました。

5. 障害者の権利保護と認定の効率化

障害者権利評議会(Council on Rights of Persons with Disabilities)が障害者関連法の施行監督や連邦機関との連携を主導しています。医療審査委員会は、NADRA(国家データ・登録局)が支援するワンストップ・システムを通じて1,617件の障害者認定証を発行するなど、手続きの迅速化と当事者の利便性向上が進められています。

まとめ

今回の経済白書からは、パキスタンが経済的な逆風や災害リスクに直面しつつも、教育の普及、法整備、社会安全網(セーフティネット)の拡充、そしてジェンダーや障害者に配慮した「誰一人取り残さない(インクルーシブな)」アプローチを着実に進めている姿勢が伺えます。南アジアの開発経済や社会政策を研究する上で、これらの具体的なデータは今後の進展を測る重要な指標となるでしょう。

2026年6月10日水曜日

教員用・生徒用の防災教育マニュアルの概要

  

前回の記事で紹介したUNESCO発行の教員用・生徒用の防災教育マニュアルについて、概要を紹介します。


1. 教員用マニュアル:学校を「安全の拠点」にするために

教員用の冊子は、先生方が授業でどう教えるかだけでなく、学校全体の「安全管理」をどう主導するか、という視点で書かれています。

  • リスクを見える化する: 学校内外の危険な場所を特定する「学校リスクマップ」の作成方法が詳しく解説されています。

  • 教育の統合: 防災を単なる避難訓練で終わらせず、地理や科学などの既存の教科の中にどう組み込むかというヒントが満載です。

  • 心理的ケア: 災害後の子供たちの心理的なサポート方法についても触れられており、先生が「心の支え」となるための指針が示されています。

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction


2. 生徒用マニュアル:自分と友達を守る「防災リーダー」へ

生徒用の冊子は、イラストや具体的なアクティビティを通して、子供たちが主体的に学べる工夫がされています。

  • 正しい知識を学ぶ: 「ハザード(危険な現象)」と「リスク(潜在的な損失)」の違いなど、防災の基本用語を分かりやすく学べます。

  • アクションを起こす: 家族と一緒に避難袋を用意したり、近所の「脆弱な人(お年寄りや小さなお子さん)」がどこにいるかを確認したりと、具体的な行動を促します。

  • 「能力」を高める: 知識を身につけることで、災害が起きた時にパニックにならず、適切な判断ができる「強さ」を養います。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

学校と地域を守る!UNESCOの防災マニュアル

 今回ご紹介するユネスコの防災マニュアルは、単なる災害対策の枠を超え、子どもたちの「就学の継続(教育権の保障)」を支える重要な基盤となるものです。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction

1. 健康を守ることは、学習の機会を守ること

アジア・アフリカの農村部では、一度自然災害が発生すると、衛生環境の悪化から感染症が蔓延し、多くの子どもたちが長期欠席や退学を余儀なくされます。 教員用マニュアルで強調されている「リスクの特定」や「衛生管理を含む備え」は、災害時においても子どもたちの健康被害を最小限に食い止め、学校という学びの場を維持するために不可欠な視点です。

2. 「自らを守る力」がレジリエンス(回復力)を高める

生徒用マニュアルが目指すのは、子どもたちが自らのリスクを正しく理解し、行動できる「主体」へと成長することです。 栄養不足や過酷な環境に置かれやすい地域の子どもたちにとって、身体的な健康を維持するための知識と、災害から身を守るための防災知能(防災リテラシー)は、いわば「生き抜くための両輪」です。自分の身を守る術を知ることは、心理的な安定にもつながり、困難な状況下でも学習を継続する意欲(レジリエンス)を育みます。

3. 学校が地域全体の「健康と安全のハブ」に

このマニュアルが提案するように、学校で学んだ防災や健康の知識を、子どもたちが家庭や地域へと持ち帰るプロセスは非常に重要です。 特に公衆衛生や安全対策が十分でない地域において、学校が「正しい知識の発信源」となることで、地域全体で子どもの健康を守り、結果として誰もが安心して就学できる社会環境が整えられていきます。


「健康」と「安全」は、教育を受けるための絶対的な前提条件です。ユネスコのこのガイドブックをアジア・アフリカの教育現場に普及させることは、単に災害に強い学校を作るだけでなく、「どんな状況下でも子どもの学びを止めない、健康的な教育基盤」を構築するための第一歩となるでしょう。


2026年6月9日火曜日

パキスタンにおける廃棄物管理と児童労働:インフォーマルセクターに埋め込まれた社会構造

 近年、途上国の都市化に伴う環境問題と、それに深く結びつく人権課題への関心が高まっています。今回はパキスタンにおける、都市の「廃棄物管理(固形廃棄物管理)」の不備が、いかにして「児童労働」という深刻な社会課題を生み出し、固定化させているのか、提供された最新の資料をもとに読み解いていきましょう

1. 廃棄物管理の現状と「ゴミ拾い」を支える非公式部門(インフォーマルセクター)

パキスタンでは、都市化の進展によって日々大量の一般廃棄物(固形廃棄物)が排出されています 。しかし、効率的な公的収集・処理システムが長年欠如していることが大きな課題です

  • 公的インフラの不足:例えばハイバル・パフトゥンハー(KP)州では、地域の約80%で効果的なシステムが不足しています

  • 非公式部門(インフォーマルセクター)への依存:首都イスラマバードでも、回収されたゴミの約20〜30%に含まれるリサイクル可能資材(プラスチック、ガラス、金属など)の収集は、公的機関ではなく「ゴミ拾い(ウェスト・ピッカー:WP)」と呼ばれる非公式な労働力に依存しています

これらの非公式部門は、ゴミ集積所や埋立地(ダンプサイト)から資源を回収し、地元の廃品業者に転売する「組織的なマーケティングチェーン」を形成しています 。しかし、行政の規制や保護の枠外にあるため、その労働環境は極めて劣悪です

2. 廃棄物回収の主戦力となる子どもたち:その過酷な実態

この過酷なインフォーマルセクターにおいて、主要な労働力となっているのが数千人規模にのぼる子どもたちです 。国際労働機関(ILO)が2023年に実施した迅速調査などからは、衝撃的な実態が浮かび上がっています

労働の早期化と教育の機会喪失

データによると、子どもゴミ拾い労働者のうち88%が5歳から11歳という極めて幼い年齢で労働を開始しています 。また、彼らの69%が読み書きができない(不就学)状態にあり、将来的なキャリアの選択肢を閉ざされる悪循環に陥っています

命を脅かす健康・安全リスク

子どもたちは、医療廃棄物や有害物質、ガラスや金属などの鋭利な物体が混在するダンプサイトで作業を行っています 。それにもかかわらず、適切な防護具を身につけていないため、日常的に感染症や深刻な身体的負傷の危険にさらされています

3. 地域ごとに異なる背景:経済的貧困と難民問題

児童労働が蔓延する背景には、パキスタンの地域的な人口動態や構造的要因が複雑に絡み合っています

地域主な労働者層背景にある構造的要因
南部(カラチなど)国内の経済的困窮者(最貧困層) 特別なスキルや初期資金を必要としないため、生存と家計補助のために子どもが従事せざるを得ない構造 。 
北部・首都圏(KP州、イスラマバードなど)アフガン難民の子どもたち 多くの登録・未登録難民が滞在 。身分証明書類(PoRやACCなど)の不足や貧困により、難民の子どもの約80%が学校に通えず、ダンプサイトが労働の受け皿となっている 。 


4. ガバナンスの壁:政策執行力とデータの不足

パキスタン連邦政府および各州政府は、環境保護法や児童労働を禁止する法的枠組み自体は整備しています 。しかし、実効性の面で大きな課題を抱えています。

  • 執行力の不備:現行法の多くは有害廃棄物の処理規制や公的インフラ整備に主眼が置かれており、非公式経済に深く埋め込まれた児童労働の取り締まりや、子どもたちを保護するための財源・労働監督官が著しく不足しています

  • 統計データの空白:全国規模の包括的な児童労働調査は1996年を最後に実施されていません 。最新の正確なデータが不足していることが、実効性のある政策立案を阻む大きな要因となっています


まとめ:求められる「環境」と「社会福祉」の統合的アプローチ

パキスタンにおける廃棄物管理と児童労働の連鎖を断ち切るためには、単なるゴミ収集インフラの近代化(ハード面の強化)だけでは不十分です

今後は、インフォーマルセクターで働く脆弱な労働者層、特にアフガン難民を含む子どもたちを公式経済へと統合していく視点が欠かせません 「親への適正賃金の保障」、そして「医療や教育へのアクセス提供」など、環境政策と社会福祉・人権政策を一つに統合した包括的なアプローチこそが、持続可能な解決への鍵となります


2026年6月8日月曜日

日本比較教育学会 第62回大会:ラウンドテーブル発表

本研究に関連して、日本比較教育学会第62回大会のラウンドテーブルでの発表が決まりました。

この大会は、2026年7月3日(金)から5日(日)まで、立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)において開催される予定です。

大会では、各国・各地域の教育を比較しながら、現代社会が直面する課題について多角的に議論することが目的です。

本研究チームの研究代表の高柳妙子氏(長崎大学)が座長を務め、研究分担者の日下部達哉氏(広島大学)が討論者、同じく分担者の藤崎竜一氏(帝京大学)の他、下山多映氏(帝京大学)及び服部拓磨氏(広島大学博士課程在籍)の計3名が発表予定です。

ラウンドテーブルの要旨は以下の通りです。

2026年5月27日水曜日

パキスタンの学校安全を支えるWASH環境:3州の現状と課題

 パキスタンは、安全な水へのアクセスが制限されている国の中で世界第9位にランクされており、約2,100万人が深刻な課題に直面しています 。学校における水・衛生・手洗い(WASH)環境の不備は、単なるインフラの問題に留まりません。それは、下痢症やコレラ、呼吸器感染症といった伝染病を招き、子どもたちの身体的・認知的発達を阻害する「学校安全」上の重大なリスクとなっています


本記事では、最新の文献レビューに基づき、ハイバル・パフトゥンハー(KP)州、シンド州、パンジャーブ州における現状と、子どもたちの安全を守るための介入策について詳しく解説します。

1. 学校における水質汚染の深刻な実態

パキスタン全土の学校において、飲料水の微生物汚染が深刻な脅威となっています。

  • 微生物学的リスク: KP州では特定の地域で全てのサンプルから大腸菌やチフス菌、コレラ菌が検出されており、シンド州の小学校でもサンプルの約半数が大腸菌(49%)や赤痢菌(63%)に汚染されています

  • 物理化学的汚染: シンド州南部では、海水混入や排水処理の不備により、TDS(全溶解固形分)や塩化物が基準を超過し、「飲用に適さない」と判定される学校が約26%に達しています

  • 健康への直接的影響: シンド州の定量的微生物リスク評価(QMRA)によると、児童の年間発症確率はカンピロバクターで70.0%に達するなど、極めて高い健康リスクが裏付けられています

2. 感染症リスクを高める社会的・環境的要因

子どもたちの安全を脅かす要因は、学校内だけでなく家庭や地域社会とも密接に関連しています。

  • 家庭環境と教育: 親の教育水準、特に父親が読み書きできない場合、子供の原虫感染リスクは4.82倍に増大するというデータがあります 。また、家庭内でのペット飼育や、母親の適切な手洗い習慣の欠如もリスク要因です

  • 地理・インフラ: 山間部の谷に居住する子供は、砂漠平原の住人に比べ7.23倍感染しやすいことが判明しています 。学校や家付近のゴミの山、未改良のトイレ施設の使用もリスクを劇的に高めています

  • 栄養状態: パンジャーブ州では、不衛生な環境による頻繁な下痢が、子供の発育阻害(低身長)を悪化させており、「栄養不良の二重負荷」が課題となっています

3. 「知識」と「実践」の大きな乖離

学校安全において最も困難な課題の一つが、衛生知識が実際の行動に結びついていない点です。

  • 意識のギャップ: KP州の学生の97.9%が手指衛生の重要性を認識していますが、実際に学校で手洗いを行う生徒は33.0%に過ぎません

  • 物理的制約: 実践が進まない背景には、学校の約半数で石鹸と水が利用できないという深刻なインフラ不足があります

  • 文化的障壁: 「水だけで手洗いは十分である」という誤解(27.8%)や、月経を「不浄」とする文化的な忌避感が、適切な衛生行動を妨げる要因となっています

4. 医療アクセスの欠如と自己診療のリスク

適切な医療へのアクセスが制限されている地域では、保護者による不適切な「自己診療(セルフメディケーション)」が蔓延しています。

  • 不適切な薬物投与: KP州アボッターバードでは、医療従事者への不信感(95%)や経済的理由から、親が自己判断で抗生物質(35%)などを含めた薬を子どもに投与するケースが多く、薬剤耐性(AMR)のリスクが懸念されています

5. 学校安全を高めるための効果的な介入策

こうした課題に対し、各州では多角的なアプローチによる成果が報告されています。

  • 行動変容コミュニケーション(BCC): シンド州では「社会的学習理論」に基づいた介入により、咳エチケットや手洗いの手順遵守率が劇的に改善しました

  • 学校拠点のアプローチ: パンジャーブ州での「3ツ星アプローチ」や、月経衛生管理を支援する「No Chutti(休みなし)」キャンペーンは、女子生徒の登校率向上や衛生環境の改善に寄与しています

  • 教育の統合: 栄養教育とWASH教育を組み合わせることで、児童の下痢や結膜の蒼白といった臨床的症状の減少に効果が見られました

結論

パキスタンの子どもたちが安心して学べる「学校安全」を実現するためには、単なるインフラ整備に留まらない統合的なアプローチが必要です 。学校での教育を核とし、家庭、コミュニティ、そして地域保健員(LHW)などの既存ネットワークと連携を強化することが、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた鍵となるでしょう

参考文献

  • Ahmad, S. (2024). Assessment of drinking water quality: Its health and marketing impacts. Munich Personal RePEc Archive (MPRA).

  • Ahmed, J., et al. (2020). Drinking Water Quality Mapping Using Water Quality Index and Geospatial Analysis in Primary Schools of Pakistan. Water, 12(12), 3382.

  • Ahmed, J., et al. (2020). Quantitative microbial risk assessment of drinking water quality to predict the risk of waterborne diseases in primary-school children. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(11), 3825.

  • Azhar, S., Faisal, M., & Aman, A. (2021). Self-reported maternal handwashing knowledge and behaviours observed in a rural hospital in Pakistan. East Mediterranean Health Journal, 27(7), 665–671.

  • Haq, I. U., et al. (2025). A qualitative exploration of parental perspectives and behaviors on self-medication for children under five in Abbottabad, Pakistan. Frontiers in Pediatrics, 13, Article 1445219.

  • Khattak, I., et al. (2023). Individual and community-level risk factors for giardiasis in children under five years of age in Pakistan: A prospective multi-regional study. Children, 10(6), 1087.

  • Perveen, S., et al. (2025). Improving nutritional status and health outcomes in school-going adolescents: a randomized controlled trial of nutrition and WASH education interventions in Gojra, Pakistan. Frontiers in Public Health, 13, 1440634.

  • Pradhan, N. A., et al. (2025). Intervention to Improve Children’s Hygiene in Urban Squatter Settlement Schools in Pakistan: An Implementation Research. Environmental Health Insights, 19, 1–12.

  • Pradhan, N. A., et al. (2020). School-based interventions to promote personal and environmental hygiene practices among children in Pakistan: protocol for a mixed methods study. BMC Public Health, 20(1), 481.

  • Sardar, A., & Behera, D. K. (2024). Wash Practices of School-Going Children in South Asia. International Research Journal of Economics and Management Studies, 3(1), 255-262.

  • Shoukat, Q., et al. (2025). Prevalence of waterborne diseases in different union councils of Abbottabad district. World, 6(2), 45.

  • UNICEF. (2022). Improving Water, Sanitation and Hygiene in Schools (WinS) – A case from Punjab province in Pakistan.

  • Zeeshan, M., et al. (2025). Assessing knowledge level regarding hand hygiene among school-going students at Charsadda, KPK, Pakistan: A cross-sectional study. Journal of Health, Wellness and Community Research, 3(10). 

2026年5月26日火曜日

学校安全の視点から見るパキスタンの児童の視覚環境と衛生的課題

 パキスタンにおいて、子供たちの視覚障害や眼疾患は、単なる個人の健康問題にとどまりません。それは、学校生活における不慮の事故リスクを高め、学習機会の喪失や将来の経済的困難に直結する「学校安全」における深刻な社会課題となっています。

近年の文献レビューに基づき、同国における「屈折異常(視力低下)への安全管理」「感染症リスクへの安全教育」、そして「デジタル技術を用いた校内スクリーニング体制」について、学校安全の視点から解説します。


1. 視力低下の見落としがもたらす「校内安全」へのリスク

近視、遠視、乱視といった「屈折異常」は、子供たちの学習権を脅かすだけでなく、校内での怪我や事故に直結する安全上の盲点です。

  • デジタル化に伴う新たなリスク(危険因子の変化) KP州アボタバードのアユーブ教育病院の調査では、受診者の約73.6%に屈折異常が認められました。特に若年層では、読書やデジタル端末の使用増加といった「近業」の広がりが近視に拍車をかけており、学校環境におけるリスク要因が変化していることを示しています。

  • 特別支援学校における安全管理の不備(脆弱性の課題) ペシャワールの特別支援学校での調査によれば、17.3%の児童に屈折異常があったものの、実際に眼鏡で適切に視力矯正されていたのは、わずか4.0%でした。視覚的な危険察知能力が低下したまま放置されることは、校内での転倒や衝突などの活動中の事故リスクを増大させます。

  • 学校生活への適応悪影響 視力の問題が放置されると、黒板が見えないことによる学習意欲の低下だけでなく、周囲の状況把握が遅れることで、集団行動への不適応や性格形成、ひいては不登校や教育機会の喪失といった「心の安全(福祉)」をも脅かす要因となります。

2. 小児眼疾患の早期発見と医療アクセス(保健管理のミスマッチ)

カラチの三次眼科施設における5年間のデータ(2015-2019年)は、学校保健安全法のような体系的な校内検診・救急処置体制が未整備である現状を浮き彫りにしています。

  • 校内で蔓延しやすい疾患への対策 受診理由で最も多いのは、集団感染のリスクが高い「結膜炎(32.67%)」であり、次いで屈折異常(20.08%)、斜視(14.7%)でした。

  • 学校保健と地域医療の連携不足 これらの疾患の約60%は、本来であれば学校検診や地域レベルの一次医療施設(保健室や地域クリニック)で対応可能な「軽微な問題」です。しかし、校内での早期診断体制がないために、大病院(三次病院)に患者が集中し、適切な治療のタイミングを逃す事態を招いています。

  • ジェンダーによる安全網の偏り 受診者の55%以上を男子が占めており、女子児童が医療や安全な健康管理へのアクセスから取り残されやすいという、ジェンダー格差の課題も存在します。

3. 「安全教育」の成功例:トラコーマ撲滅と変化の主体としての児童

大きな成果として、パキスタンは2024年に、失明の主要原因である感染症「トラコーマ」の公衆衛生上の撲滅をWHOにより認定されました。この成功の背景には、学校を拠点とした「安全教育・衛生教育」の優れた戦略がありました。

  • 「WASH大使」による行動変容の推進 水・衛生(WASH)環境の改善に合わせ、児童自身を「WASH大使(衛生安全のリーダー)」として育成する戦略が功を奏しました。

  • 学校から家庭・地域へ広がる安全網 子どもたちが学校で学んだ衛生知識を家庭に持ち帰り、手洗いや洗顔を促す「変化の主体」となりました。これにより、地域全体の感染リスクを下げるという「地域安全」に貢献しただけでなく、体調不良による欠席を減らし、学校の出席率向上という教育面の安全保障(セーフティネット)をもたらしました。

4. デジタル技術を活用した校内スクリーニングと保護者連携(組織的対応の壁)

パンジャーブ州では、スマートフォンアプリ「Peek」を用いた大規模な校内視力スクリーニングが実施され、学校安全のデジタル化への可能性を示しました。

  • 高精度な校内検診の実現 約15万人を対象とした調査で、このアプリが専門知識の乏しい教育現場でも、高い診断精度で子供たちの眼疾患を特定できることが証明されました。

  • 「事後措置」における家庭連携の障壁 しかし、異常が見つかり受診を推奨された子供のうち、実際に医療機関を受診したのは47.1%に留まりました。「スクリーニング(発見)」ができても、保護者の危機意識の不足、医療施設への距離、経済的負担といった壁により、適切な「事後措置(治療)」につながらないという、学校危機管理上の課題が残されています。

学校安全の視点からの提言と今後の展望

文献レビューの結果から、パキスタンの学校において子供たちの生命・身体の安全を守り、学習の質を担保するためには、以下の3つの「学校安全計画」の策定が必要です。

  1. 学校を拠点とした検診の義務化(安全管理の徹底) 斜視に伴う弱視などは、早期発見によって永続的な視力喪失(身体的損傷)を防げます。すべての学校やマドラッサー(宗教学校)において、定期的な視力検診・眼科検診を制度として義務化することが不可欠です。

  2. 学校・地域・専門医療をつなぐ紹介システムの構築(組織体制の強化) 校内の検診結果から、地域の検眼士や専門医へとスムーズにつなぐ「救急・紹介ルート」を明確にし、大病院への一極集中を防ぎつつ、受診率を100%に近づけるアプローチが必要です。

  3. 持続可能な衛生・安全教育のカリキュラム化(安全教育の定着) トラコーマ撲滅の成功体験(WASH大使の仕組み)を一時的なものとせず、自他への危険予測や健康維持の能力を育む「安全教育」として、学校のカリキュラムに恒久的に組み込むべきです。

参考文献

  • Saleem, B., et al. (2021). Prevalence of refractive errors among the children of Special Education Complex, Peshawar. Journal of Gandhara Medical and Dental Science, 5(1).

  • Aman, S., et al. (2025). Implementation outcomes of a school-based visual screening program using the peek tool in low-resource settings in Pakistan. BMC Public Health, 25, 4120.

  • Khan, A. A., et al. (2025). Field notes: Children as WASH ambassadors—Insights from Pakistan’s trachoma elimination programme. PLoS Neglected Tropical Diseases, 19(12).

  • Zahir, K. K., et al. (2023). Frequency of Amblyopia in strabismus patients presenting to tertiary care hospital. Romanian Journal of Ophthalmology, 67(1).

  • Wazir, J. F., et al. (2023). Distribution Pattern of Trachoma in Pakistan and Monitoring the Effects of Water Availability upon Disease prevalence. Pakistan Journal of Medical & Health Sciences, 17(06).

  • Khan, A. A., et al. (2020). Prevalence of trachoma in Pakistan: results of 42 population-based prevalence surveys from the Global Trachoma Mapping Project. Ophthalmic Epidemiology, 27(2).

  • Bukhari, S., et al. (2022). Five years’ retrospective analysis of childhood ocular morbidities. Pakistan Journal of Medical Sciences, 38(6).

  • Sirang, Z., et al. (2019). Types of refractive errors in northern Pakistan: a hospital-based survey. Ophthalmology Journal, 4(2). 

社会的脆弱グループ関連情報:パキスタン経済白書2025-2026

今回の記事では、新たに発表された「 パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026) 」の記載内容の中で、社会的脆弱グループに関する記述に焦点をおいて紹介していきます。 パキスタン政府は経済調整や外部ショックが国民の福...