2026年7月13日月曜日

パキスタン政府が提出した最新VNR(2022年)

 持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」および「最も遅れている者を最優先に(Furthest Behind First)」という理念は、今日の国際開発において最重要のテーマとなっています。本記事では、2022年に提出されたパキスタンの自発的国家レビュー(VNR)を基に、同国における社会包摂への具体的な取り組みと今後の課題について解説します。

1. 概要と背景:危機の克服とSDGsの現地化

パキスタンは2016年2月に、SDGsを国家開発アジェンダとして世界で最初に採択した国です。国家ビジョンである「Pakistan Vision 2025」とSDGsを統合し、それぞれの地域の実情に合わせる「現地化(Localization)」を推し進めてきました。

2019年から2021年にかけては、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックやロシア・ウクライナ戦争に伴う物価高騰など、非常に激しい外部ショックに見舞われました。しかし、政府による的確な「スマート・ロックダウン政策」や、大規模な社会保護プログラムの拡張が功を奏し、2021-22年度には5.97%のGDP成長率を達成しました。このように、困難な状況下でも急速なV字回復を果たした背景には、強固な政策的下支えがありました。

2. ジェンダー、障害児者、脆弱層における具体的取り組み

パキスタン政府は、特に脆弱な立場にある人々やマイノリティ、ジェンダー、障害者に関する包摂的な開発を重視しており、以下のような多角的な政策を展開しています。

① ジェンダー平等と女性のエンパワメント(SDG 5)

女性はパキスタンの総人口の48.4%を占めているものの、伝統的な社会規範やインフラの不足が原因で、労働力への参画率が極めて低いという課題がありました。この状況を改善するため、2022年3月に初の「ジェンダー政策枠組み(Gender Policy Framework)」を立ち上げました。

法的保護の面では、2022年の「職場における女性へのハラスメント防止(改正)法」の制定や、家庭内暴力(予防・保護)法案の整備が進められています。また、シンド州ではジェンダーに基づく暴力(GBV)の被害者を支援するワンストップのヘルプライン(1094)を開設しました。

さらに、経済的自立を促すため、パンジャブ州の「HERSELF」やギルギット・バルティスタン(GB)の「SheDev」を通じて、女性へのICTスキル習得支援を行っています。南部パンジャブ州の「Siyani Saheliyan」プログラムでは、不就学の思春期の少女(9〜19歳)約16,858人に基礎教育や職業訓練(TVET)を提供し、正規学校への編入を支援しています。

② 障害児者(PWDs)への支援

障害のある人々の権利を法的に保障するため、2020年に「イスラマバード首都圏(ICT)障害者権利法」を制定しました。また、教育や情報へのアクセス向上を目指し、ギルギット・バルティスタンにおいて視覚障害者のニーズに対応した「デジタル inclusive 図書館」を開発しました。ここでは膨大なウルドゥー語文学のオーディオブックが提供されるなど、先進的な取り組みが進められています。

③ 宗教的マイノリティへの配慮(SDG 4)

2021年度から順次導入された「単一国家カリキュラム(SNC)」では、非イスラム教徒のマイノリティ児童・生徒のために、キリスト教、ヒンドゥー教、シーク教、バハーイー教、カラーシャ族の宗教、ゾロアスター教、仏教の7つの宗教を対象とした個別の「宗教教育」カリキュラムが開発されました。加えて、パンジャブ職業訓練評議会(PVTC)の技能訓練では、宗教的マイノリティの若者を積極的に受け入れています。

④ 脆弱層・困窮層への社会保護(SDG 1 & 2)

パンデミック下において、人口の約44%が貧困層または貧困のリスクに晒される極めて脆弱な状態にありました。政府は「Ehsaas」や「ベナジール収入支援プログラム(BISP)」を中心に広範な社会保護を展開し、COVID-19期間中には1,690万世帯への現金給付を達成しました(世界銀行より世界第4位の規模と評価)。

  • 高齢者支援: パンジャーブ州の「Ba Himmat Buzurgプログラム」による標的型支援を実施しました。

  • 生活基盤の提供: 住居のない人々のための避難所(Panahgahs)や無料食堂(Lungar Khanas)を設置しました。

  • 健康と技能訓練: 発育阻害(stunting)撲滅のための母子栄養プログラム「Nashounama」の実施や、パキスタン・べイト・ウル・マール(PBM)を通じた未亡人や貧困層の少女への技能訓練センターの提供など、多角的な貧困削減を推進しています。

3. 今後の課題

これらの素晴らしい取り組みを継続し、SDGsを確実に達成するためには、多大な資金と組織的な課題を克服する必要があります。

財政面においては、GDPの16.6%(年間約460億ドル)に及ぶ追加資金が必要と試算されていますが、厳しい財政空間の制約が大きな障壁となっています。また、地域間やジェンダーにおける格差の解消、行政データの不規則性の改善、地方政府への権限委譲の遅れなどが挙げられており、これらがエビデンスに基づく迅速な政策立案や、現地化の更なる推進における今後の重要な課題となっています。

参考文献 Government of Pakistan. (2022). Pakistan's Voluntary National Review: Implementing Best Practices to Build Forward Better in the Decade of Action. Ministry of Planning, Development and Special Initiatives.

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