2026年7月7日火曜日

パキスタンの障害者の権利委員会の総括所見(2026年5月)

今回の記事では、国際的な障害者の権利擁護に関する最新動向として、2026年5月8日に発行された国連の「障害者の権利に関する委員会」によるパキスタンに関する総括所見の概要についてご紹介します。

本報告書は、パキスタンにおける障害者の権利条約の履行状況を審査し、今後の課題と勧告をまとめたものです。今回は、全般的な動向に加え、特に「子ども」に関連する重要な指摘と勧告について詳しく解説します。

1. 全般的な概要と評価の傾向

まず、パキスタン全体における条約履行状況への評価を見ていきます。報告書では、前向きな進展が評価される一方で、根深い構造的な課題への懸念も示されています

肯定的に評価された側面(前向きな進展)

2011年の条約批准以降、パキスタン政府が進めてきた以下のような法制度や政策の整備が評価されました

  • 連邦および各州レベルにおける「障害者権利法」の制定

  • 高等教育分野での障害学生向け政策の採択

  • 障害のある女性も対象に含めた「家庭内暴力(予防・保護)法」の制定(2026年)

  • 「国家人権アクションプラン」の改定

主な懸念および勧告の傾向

一方で、依然として残る課題として以下の点が強く指摘され、改善が求められています

  • 人権モデルへの移行: 障害の定義や評価において、いまだに「医学的モデル」が根強く残っており、障害者を権利の主体として捉える「人権モデル」への転換が必要です

  • 政策の連携不足: 各州間での法律や政策の連携・整合性が不十分であり、地域的な格差が生じています

  • 当事者参加の不足: 政策決定や監視のプロセスにおいて、障害のある女性、女児、地方在住者といった当事者の実質的な参加メカニズムが不足しています

2. 子どもに関連する主要な懸念事項と勧告(詳細)

今回の総括所見では、障害のある子どもたちが置かれている過酷な環境についても、具体的な条項に沿って多くの懸念と勧告がなされています

① 子どもの権利一般、データ収集と保護(第7条)

  • 【懸念】 施設に収容されている子ども、貧困層、あるいは地方・僻地に住む障害児の状況に関する情報やデータが極めて限定的です。また、施策の策定プロセスに子どもたち自身の意見が十分に反映されていません

  • 【勧告】 障害のある子どもの状況に関する詳細なデータを体系的に収集し、放棄や虐待、施設収容を防止する措置を講じることが求められます。また、子どもたちが自身の関わる問題について意見を表明できる場を確立し、プログラムへ反映させることが重要です

② 児童婚の禁止(第7条)

  • 【懸念】 1929年の児童婚制限法で女子の婚姻最低年齢が16歳とされていること、また1961年のイスラム家族法条例に例外規定が存在することにより、障害のある子どもを含む児童婚が一部の地域で許容されています

  • 【勧告】 1961年のイスラム家族法条例を改正して例外規定を廃止し、すべての州で男女ともに婚姻最低年齢を18歳に引き上げる法改正を行うよう促しています

③ 啓発・意識改革(第8条)

  • 【懸念】 一般市民や家族、公務員を対象とした体系的な啓発キャンペーンが不足しており、特に障害のある子どもや女性、知的・精神社会的障害者に対する理解が不十分です

  • 【勧告】 障害のある子どもや女性を含む当事者団体と緊密に協議しながら、偏見やステレオタイプを打破するための包括的な国家啓発戦略を採択することが勧告されています

④ 暴力、虐待、搾取、および強制的な身体侵害からの自由(第15条、第16条、第17条)

  • 【懸念】 通常校や特別支援学校、病院、シェルター等の公的機関において、障害のある子どもや若者に対する「身体的拘束や制限的慣行(restrictive practices)」が使用されている可能性について、全国調査が行われていません。さらに、障害児が「強制乞食(forced begging)」などを通じて搾取されている事例や、障害のある女児への「強制的な不妊手術・人工妊娠中絶」が継続している点が深刻に受け止められています

  • 【勧告】 教育や医療・ケア施設における制限的慣行の使用状況を全国調査して根絶すること、強制乞食や虐待から適切に保護するための効果的な措置を講じること、そして強制不妊手術・中絶を廃止する法的措置を講じて加害者の責任を追及することが強く求められています

⑤ 出生登録と家族生活(第18条、第19条)

  • 【懸念】 障害のある子どもが生まれた際に出生登録がなされないケースがあり、子どもが家族環境のなかで育つための家族支援も不足しています

  • 【勧告】 すべての障害児が確実に登録されるよう訪問型(ホームベース)の監視・フォローアップメカニズムを確立するとともに、施設収容から地域移行を進めるため、家族(特にシングルマザー世帯)への支援を提供し、家族生活を享受する権利を保障するよう求めています

⑥ 教育(第24条)

  • 【懸念】 障害のある子どもの高い不就学率や中途退学率がいまだに続いています。政府は「インクルーシブ教育」よりも依然として「特別支援教育」に重点を置いたサービスを提供しており、公立学校が障害児を私立学校や特別支援学校へ通わせるよう促すケースも見られます

  • 【勧告】 学校への入学率・在籍率を向上させ、インクルーシブ教育システムへ移行するための国家計画を採択すべきとしています。また、公立学校での「入学拒否禁止政策(non-rejection policy)」を導入し、特に地方・僻地の障害児の就学を強化すること、点字や手話の教材整備、教員研修の義務化を求めています

まとめ

今回のパキスタンに対する総括所見では、法制度の進展というポジティブな側面がある一方で、特に子どもや女性といった脆弱な立場にある障害者の権利保障には、依然として重大な課題が残されていることが浮き彫りになりました

特にインクルーシブ教育へのシステム転換や、強制不妊手術の廃止、児童婚の根絶など、子どもたちの尊厳を守るための法改正と実効性のある施策が急務とされています。当ブログでは、今後も各国の障害者の権利条約履行状況や、国際機関による勧告の動向に注目し、発信を続けてまいります。

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