パキスタンにおける子どもや女性への暴力は、極めて深刻な人権課題です
1. 数字が語る深刻な現状:2025年の統計データから
パキスタンのNGO団体「Sahil(サヒル)」が発表した報告書『Cruel Numbers 2025』によると、2025年にパキスタン国内で報道された児童虐待件数は、前年から8%増加して3,630件に達しました
被害者の内訳: 女子が53%(1,924件)、男子が47%(1,625件)で、11〜15歳の年齢層が最も被害に遭いやすい傾向にあります
。また、新生児の被害も116件報告されています 。 主な犯罪カテゴリー: 「誘拐」が最も多く(1,107件)、次いで「ソドミー(男色)」(596件)、「強姦」(522件)と続きます
。驚くべきことに、加害者の多くは「知人や顔見知り」でした 。 地域的な偏り: パンジャーブ州が全体の73%と、圧倒的な割合を占めています
。
さらに、女性に対するジェンダーに基づく暴力(GBV)も前年比で34%急増しています
救いがある点としては、児童虐待事件の82%が警察に登録(第一情報報告:FIR)されており、法執行機関が以前よりも積極的に動いている兆候が見られることです
2. 組織的虐待事件が露呈させた「制度の破綻」:カスール事件
パキスタンにおける児童虐待の闇を象徴する出来事が、パンジャーブ州カスール県で発生した大規模な組織的児童性的虐待事件(通称「カスール事件」)です
パキスタン国家人権委員会(NCHR)の事実調査報告書は、この事件を「社会の監視機能や法執行機関の完全な破綻」であると厳しく批判しています
この背景には、パキスタン刑法に「児童ポルノ」や「商業的性的搾取」を直接処罰する明確な規定がないという、法的な欠陥もありました
3. 医療現場が直面する「多層的な障壁」と文化的タブー
虐待を早期に発見する上で、病院の救急部門などに勤務する医療従事者(HCP)は非常に重要な役割を担っています
法的権限の無さ: 児童保護機関との連携プロセスが曖昧です
。また、親が「医学的勧告に反する退院(LAMA)」を希望した場合、医療従事者には子どもを保護するために拘束する法的な権限がありません 。そのため、介入しても最終的に子どもが虐待親の元に戻され、事態が悪化するというジレンマを抱えています 。 安全上の懸念: 加害者側から医療従事者やその家族への脅迫・報復があるため、介入を躊躇してしまうケースがあります
。 文化的タブー: パキスタンでは厳しい体罰が「しつけ」として容認されがちで、虐待との境界線が曖昧です
。さらに、性被害について語ることは「家の名誉を傷つける文化的なタブー」とされているため、家族が事実を隠蔽しようとします 。
これらの課題を解決するためには、欧米のシステム(里親制度など)をそのまま持ち込むのではなく、パキスタンの文化に根差した家族ネットワークの活用や、明確な院内プロトコルの策定、そして医療従事者へのフォーマルな研修が必要不可欠であると指摘されています
4. 国連の評価と、もう一つの課題「教育の非常事態」
2026年1月に開催された国連・児童の権利委員会(UNCRC)の審査において、パキスタン政府が憲法で「児童の最善の利益」を掲げ、過去10年間で約100もの児童関連法を制定してきたことは高く評価されました
しかし国連の専門家たちは、法律の制定と「実際の運用」の間に大きな乖離があることを強く懸念しています
特に深刻なのが、「教育非常事態(education emergency)」と呼ばれる問題です
子どもたちが学校に行けず、社会的に保護されない環境に置かれることこそが、児童虐待や暴力の温床になっているのではないかと指摘されているのです
5. まとめ:私たちに求められる視点
今回の文献レビューを通じて、パキスタンにおける児童虐待やジェンダー暴力の解決には、単に「立派な法律を作る」だけでは不十分であることがよく分かります
警察の腐敗や怠慢を無くすこと、医療現場の安全と権限を守ること、そして「しつけ」や「名誉」を言い訳にする文化的なタブーを壊していくことが同時に求められています
国際社会の一員として、また児童福祉を研究する者として、私たちは今後もパキスタンの動向を注視し、支援のあり方を考えていく必要があります
皆様は、この現状についてどのように考えられますか?ぜひコメント欄でご意見をお聞かせください。
参考文献
The Express Tribune. (2026, March 16). Child abuse cases in Pakistan rise 8% to 3,630 in 2025: Sahil. The Express Tribune.
https://tribune.com.pk/story/2526012/child-abuse-cases-in-pakistan-rise-8-to-3630-in-2025-sahil National Commission for Human Rights, Government of Pakistan. (2015). The Kasur incident of child abuse: Fact finding report.
https://nchr.gov.pk/wp-content/uploads/2019/01/Kasur-Report.pdf Maul, K. M., Naeem, R., Khan, U. R., Mian, A. I., Yousafzai, A. K., & Brown, N. (2019). Child abuse in Pakistan: A qualitative study of knowledge, attitudes and practice amongst health professionals. Child Abuse & Neglect, 88, 51–57.
https://doi.org/10.1016/j.chiabu.2018.10.008 United Nations Human Rights Office of the High Commissioner. (2026, January 16). Experts of the Committee on the Rights of the Child praise Pakistan's protections for the best interests of the child, ask about violence against children and the "education emergency".
https://www.ohchr.org/en/meeting-summaries/2026/01/experts-committee-rights-child-praise-pakistans-protections-best
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